☆相互リンク記念 第二弾☆
なごみまくりさんへ





What I really meant to say is...

本当の気持ち






chapter 2. I Bruise Easily




―群青色に染まった天井が見える。

あたしは、もう一度瞬きして、ベッドを優しく覆う しなやかな天蓋に走る 青いしわを 何となく数えた。

そう、あたしは…アリスの部屋にいるんだ。
ここは、アリスのベッドで、眠るように言われたんだった。

少し体をずらして、大きく切り取られた窓を見る。
もう 外はすっかり日も落ちて、部屋の中よりも もっと深い青に染まっていた。

アリスはいなかった。
たぶん、あたしが眠ったのを見て、部屋を出て行ったんだろう。
それは別に何てことない、普通の行動のはずなのに…なぜか今日のあたしには堪えた。

あたしは元々 ”目が覚めたら たった一人”っていうシチュエーションには馴れっこなはずだった。
ママは あたしを育てるために忙しく働いてたから、子供の頃に 昼寝をしたって、ママが 同じ部屋で着いててくれたわけじゃないし、朝早く出勤するチャーリーと暮らすようになってからは、目が覚めて一人、なんていうのはそれこそ日常―

ううん、そうじゃなかったんだ。

あたしは、はっとした。
もちろん、ママと暮らしてた頃は個室があったし、チャーリーと暮らし始めたって それは変わらない、いつも一人だったって思ってたけど…違ったじゃない。

あたしがフォークスに越してきてから ほとんどすっと、
エドワードが、いてくれた。

夜中に目が覚めても 怖くない。エドワードが 優しくほほえんで またあたしを寝かしつけてくれるから。
学校で疲れて、うっかり眠り込んで、寂しい夕方に目が覚めたって、エドワードが笑いかけてくれるから、あたしは 寂しさなんて感じたことはなかった。

それなのに、こんな風に 今 部屋はしんとして、あたしは一人…
まるで、悪い夢を見て目が覚めて、それなのに まだその悪夢が続いてるみたい。

まるで、エドワードがいなくなった時みたい…

今日は、エドワードはどこにも行ったりしてない、この部屋を出て リビングにでも行けば、カレン家のみんながいるはずって 分かってるけど…



でも、本当にそう?
あたしは、エドワードと喧嘩したんだ。
エドワードは傷ついて、ひどく怒った表情をしてた。
もしかしたら、あたしは 知らずにとんでもない間違いを犯したのかもしれない。



エドワードは、もう そんなあたしに愛想が尽きて、また出て行っちゃったかもしれないじゃない…
そうじゃないって、どうして言えるの?





誰も、いない。
闇の中に あたしは一人…





「―泣かないで」



最初の涙が あたしの頬を伝った瞬間ベルベットのように滑らかな声が 後ろから聞こえた。


あたしは、思わず心臓が飛び出しそうなくらい びっくりしたけど、何だか怖くて 振り返ることはできなかった。
息を殺して、必死で 自分を落ち着けようとする。


「ベラ…どうか 泣かないでくれ。そんな風に一人で…」


エドワードが、さっきよりも もっと悲しそうな、気持ちのこもった声で呼びかける。
足音は聞こえないけど、声の近さから エドワードが 今はベッドのすぐ側に来てるんだと分かった。
別に こんな風に感じる必要はないっていうのに、何だか 怒られるんじゃないかと怖い。
それでも、あたしは 何とか 搾り出すようにして 小さく答えた。


「―泣いてないわよ」

「…嘘だな、手に取るように分かるさ」


エドワードの声は なぜかほっと安心したみたいだった。
ベッドが 少し軋んで、エドワードが その端に腰を下ろしたのが分かる。

あたしたちは そのまま どちらともなく口をつぐんで、しばらくそのままでいた。
ベッドの端の あたしとエドワード。
気まずい沈黙が流れる。
何か言った方が良いのかもしれないけど、また何かしでかすんじゃないかと 怖くて 口を開けなかった…



「…ごめん」



あたしが焦り出した頃、エドワードが 本当に かすかな声で囁いた。

思わず目を見開く。


「ベラ、さっきは済まなかった…心からそう思うよ、あれから きみが出て行ってから 一人になって考えて、分かったんだ―ぼくが ばかだった」


エドワードは、まるで独り言でも言うかのように 静かに言葉を続けた。


「あんな風に感情的になって、わざときみを傷つけるようなことを言うなんて、ぼくは本当にどうかしてたんだ…自分が何を言ってるのか、まるっきり分かってなかったんだ。忘れてほしい。さっき言ったことは―ぼくの本心じゃないんだ。本当に済まない」


エドワードの声には、気持ちがこもっていた。
本当に悪かったって思ってるんだって、それは良く分かった。
分かったんだけど…


「エドワード…どうして あんなこと言ったの?」


ちゃんとした声を出したつもりだったけど、それはあまりに か細かった。
あたしは、震える声で続けた。


「あなたさっき まるで、あたしたちが一緒にいることは間違いだって言ってるみたいだった。どうして、あんなこと思ったの?もしかして―」


思わず涙があふれそうになるのを、嗚咽を必死でこらえて、あたしは 絶望的な予想を口にした。


「あなた…あたしといるのが 嫌になっちゃった?あたしと 別れたいの…?」

「ベラ―」


自分の言葉に 自分で怖くて仕方なくなって、思わずぎゅっと自分を抱きしめたとき、エドワードが 後ろから もっと強く あたしの体を抱きしめた。

少し 肩が痛むくらい、エドワードはあたしをきつく抱いて、その ひんやりした鼻先が あたしの頬に押し付けられる。


「そんなわけないだろ―きみがいないと、ぼくの人生はおしまいだ。ぼくが、きみを手放すわけない」

「そう…それ聞いて、ちょっと、ほっとしたかも…」


とりあえず、最悪の結末は免れたから。

エドワードは、今度は注意深くあたしの反応を見ながら、あたしを抱えなおし、ベッドに横たわった。
左腕で あたしの腰を支えて、空いた手で どこか戸惑いがちに、でも優しく 髪を撫でてくれる。


「そんなこと、心配する必要なんか これっぽっちもないさ。分かってるだろ、ぼくは きみ無しじゃ生きられない。もう二度と きみの側を離れたりしないって」

「そうだけど…」


あたしは 言葉に詰まった。
エドワードは もう怒ってないみたい。
あたしを優しく撫でる腕は優しいし、このまま あたしが ぐずるのをやめれば、午後みたいに いつものあたしたちに戻れるんだろう。
夕方言われたことは ものすごくショックだったけど、気にしなければ…

そこで、エドワードが ゆっくりとため息をついた。
あたしを引き寄せ、守るように抱きながら、肩を ぽんぽんと叩く。


「―ほら、言いたいことを言ってごらん。もう あんな風に感情的になったりしない、誓うから」


あたしは、少しためらった―
でも、まるでエドワードの催眠にかかったみたいに、気がつくと 口を開いていた。


「―どうしてなの」


あたしは 耐え切れなくなって、エドワードの胸に顔を埋めた。
その 鋼のように硬い体に、無駄だって分かってはいるけど、こぶしを打ち付ける。


「ど、どうして、あんなこと言ったのよ!あたしは、てっきりあなたが あたしを嫌いになったんだって…思って…」


こみ上げてくる涙を堪えきれずに 思わず泣き出したあたしの背中を 励ますように エドワードは そっと擦った。


「あたしは、何があっても絶対、一緒にいるのが間違いだなんて、考えたこともないのに―あなたは違うの?いやだって、心のどこかで思ってるの?だから、あんなこと言ったんじゃない…?」


しゃくりあげながら それだけ言って、でも あたしは そんな風に自分の気持ちを話してる あたしの大胆さに 正直びっくりした―頭に血がのぼってはいたけど、でも エドワードの優しい態度と一緒に 瞬間的な興奮が引いてくるのが分かって、何だか空恐ろしくなった。

あたし…これじゃまるで、せっかくの仲直りじゃなくて、余計に喧嘩を悪化させたりして。
エドワードが 心底すまないと思ってることは 良く分かるし、そういうときは 過ぎたことを蒸し返さない方がいいんだと思う。
それは分かってるんだけど…

でも、エドワードの あの冷たい瞳を そう簡単に忘れることなんかできなかった。
恐怖が、心に刻み込まれてたから。




エドワードは、しばらく黙ったままだった。
そんな些細なことが、今はあたしを すごく不安にさせる。
もう、ここで別れを言い渡されるんじゃないかって―おかしいくらい、あたしは臆病だ。


「―ベラ」


エドワードが、やっと重い口をひらいた。


「どう言ったらいいんだろうな、ぼくは―」


エドワードは、そこで一旦言葉を切って ため息をつき、あたしの髪にキスした―
まるで、何かの おまじないみたいに。


「ぼくは、ベラ、きみと別れたいだなんて、本当に微塵も思ってやしない。これは本心だ、信じてほしい…ただ、きみは良く分かってると思うけど…アリスもしょっちゅう言うんだ、ぼくは 屈折してるって。つまりは、白状すると…」


こんなに まどろっこしい 言い訳みたいな前置き、エドワードにしては珍しい。
エドワードは、いつだって あたしが恥ずかしくなるぐらい 自分の気持ちをストレートに表現するタイプなのに。

エドワードは、また ため息をついて、夜風の囁きのように かすかな声でつぶやいた。


「―すねてみただけ」

「…えっ?ごめん、今何て言ったの?」

「…まったく!」


エドワードは、いらだったように声を荒げて、あたしを一気に自分の方に向かせて、乱暴に抱きしめた。


「言った通りさ、きみの気持ちを確かめたくて、あんな風に拗ねてみせたんだ!きみがあんまり一生懸命慰めてくれるから、ついつい調子にのって 言う気のない言葉まで言ったけど、あれは本心じゃない―ぼくは、きみが どれくらい ぼくを思ってくれてるか、つい確かめたくなって…」


エドワードは、あたしを抱く腕を 少しゆるめて、一息ついて また話し始めた。


「ジェイコブ・ブラックのこと、悪かったと思ってるのは本当だ。ぼくが 馬鹿だったせいで、きみを一人にした。あいつに きみの貴重な時間を むざむざとくれてやったんだから…もしそれで、きみの心があいつに傾いたとしても、それはきみのせいじゃない。ぼくが責任を取るべきことなんだ。でも―」


エドワードは、そこでようやく あたしの目を見た。
彫刻のような指が、優しく あたしの額をなぞる。


「きみを、この目で見た瞬間から、きみが ぼくの みじめな人生に戻ってきてくれた瞬間、そんなことは一切忘れた…何が何でも きみといたい。きみを失いたくない。ぼくを選んでほしい、そう思ったんだ…ぼくは…」


あたしは、頼りないくらいに悲しそうなエドワードの瞳を覗き込んで、そっと その唇に 人差し指をあてた。


「―もう、分かったから」

「違うんだ、ベラ、ちゃんと言わせてくれ」

「しーっ…いいから。ほら あたしの目を見て。ね?あなたの気持ち、ちゃんと分かった」


まだどこか不安そうにしてるエドワードの髪を いつも彼があたしにしてくれてるみたいに、ゆっくり撫でながら、あたしは繰り返した。


「つまり、簡単に言うと、あなた あたしのことを 好きすぎる、そういうことなんでしょ?」


…分かってる、ちょっとこれは傲慢なセリフだったかも。
だけど、ズタズタに傷ついた心が 昔の自信を取り戻すには それぐらい大きな何かがいる。

エドワードも、いつもこんなこと言わないあたしが おかしかったのか、思わず小さく吹き出して、でも あきらめたように、どこかくやしそうに答えた。


「ま、そういうことだな。さすがはベラだな、ぼくのこと、良く分かってるみたいだ」

「当たり前よ、もう けっこう長く一緒にいるんだから…」


エドワードは、ようやく笑ってくれた。
澄んだ笑い声が、静かな室内に おだやかに響き渡る。

ようやく 笑いが収まると、エドワードは 両手を挙げて ため息をついた。


「まったく、きみにはお手上げだよ」

「気づくのが遅いわ」

「わかったよ、本当は認めたくなかっただけだ、ぼくはきみには 絶対に勝てないって」

「わかれば良いのよ―」


エドワードの唇が あたしのに重なる。

これで やっと落ち着けたって、あたしは感じた。

エドワードの、繊細なキス…それに、なんだか 臆病な子供みたいな エドワードの 傷つきやすいハートにも 触れたような気がする。


エドワードは、そっと唇を離して、心をこめて あたしの瞳を覗き込んだ。


「本当にすまなかった―約束するよ、もう二度と きみを悲しませるようなまねはしないって」

「そうしてくれると、助かるかも…ほら、あたし あなたにぞっこんだから、くやしいけど 割と簡単にショックを受けちゃうの。あなたの言葉一つで、すっごく幸せになったり、逆に悲しくなったりする…」


エドワードの 美しく青く輝く顔を やさしく抱きしめながら、あたしはほほえんだ。


「だから、優しくしてね―体はこんなに丈夫でも、心は 割と か弱いんだから!」



そして、エドワードは あたしを強く強く、抱きしめた―









and then...











「―さて、じゃあ そろそろ他の部屋へ行こうか」

「え?…ああ、夕飯ってこと?そうよね、もう遅いみたいだし…」


何時だろう、と あたしが時計を探して 体を起こすと、エドワードは 心底おかしそうに くっくっと笑った。


「―なによ」

「いや、別に…ただ、その表現でも 間違いじゃないなって思っただけさ。ぼくにとっては フルコースのディナーと同じだからね」

「…なにが?」


あたしが 訳も分からず ぼーっと見つめ返すと、エドワードは にやっと口元を歪めて 意味ありげな微笑を浮かべた。



「アリスからの命令なんだ―この部屋では するなって。このベッドは、アリスとジャスパー専用だから…ふん、ぼくらもそろそろ、ベッドを買うかな。もっと大きくて 寝心地がいいやつ―ってベラ、顔が赤いみたいだけど…?」












End!









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