☆相互リンク記念 第一弾☆
なごみまくりさんへ





What I really meant to say is...

本当の気持ち






chapter 1.  Cold




「―もういい、エドワードなんか!」


あたしは 窓枠に腰掛けたエドワードを振り返ることもなく、重いドアノブに手をかけた。
それでも カレン家の広い廊下に踏み出す ほんの一瞬前に、エドワードの小さな声が聞こえてしまう。


「…きみがいけないんだからな、ベラ」



あたしは、わざと音を立てて、叩きつけるように 背中でドアを閉めた。

薄暗い廊下の、ひんやりとした空気が さびしく あたしの頬をなでる。
あたし…


「―ベラ?」


ふと気づくと、すぐ側にアリスが立っていた。
滑るように軽やかにあたしに近づいてきて、細い指で あたしの目じりをそっとなぞる。


「どうしたの、こんなに涙を溜めて…あたしで良ければ、話してみて?」


アリスに優しく肩を抱かれると、あたしは もう堪えきれなくなって、今まで我慢してた分 一気に泣き出してしまった。





「―ごめんなさいね、エドワードのこと…」


アリスの部屋で、テーブルの上にお茶を用意してくれながら、エズミが悲しそうに言った。
わざわざ あたしの為に揃えてくれたのか、ちゃんとミルクや砂糖、クッキーまである。
あたしは、アリスの腕の中で 無様な顔で 毛布にくるまってはいたけど、でも その心遣いに 少し気持ちが落ち着いてきた。

渡されたティッシュを一枚取って 涙の跡を拭くと、アリスは 心底腹立たしそうに唸った。


「当然よ、ベラみたいにいい子を泣かすなんて、エドワードが全部悪いに決まってる。今日は何か嫌な予感がしたのよね…ベラが止めてなきゃ、今すぐにでも 殴り飛ばしに行くんだけど」

「ありがとう、アリス―でも 違うの、エドワードの言うとおり あたしが悪かったのかもしれない」


エズミは、心配そうな顔をして、カウチに腰を下ろした。
あたしに 温かそうに湯気のたってる紅茶のカップを勧めながら、優しく問いかける。


「自分が悪いって 責めたりする必要ないのよ、ベラ…エドワードとの間に 何があったの?お昼までは、いつもどおりうまく行ってるように見えたけど」

「そう、確かに お昼までは何も問題は無かったんだけど―」


あたしは、眉の間に 思わず皺が刻まれるのを感じて、そっと カップに口をつけた。





「―好きなのがあったら、何でもかけたらいい ベラ。オーディオの使い方は もう覚えた?」


エドワードは、ほほえみながら 居心地よさそうに 黒い革張りのソファに腰を下ろした。
あたしは 床から天井まで 壁をびっしり埋め尽くすCDに 改めて呆気にとられながら、でも 早速 いつもみたいに物色を始めた。


「まったくもう、あたしは機械オンチだから まだ覚えられないだろうって言いたいんでしょ。おあいにく様、確かに 細かい設定はまだ変えられないけど、でも再生ぐらいはできるんですからね…それにしても、いつ来ても あなたのコレクションってすごいのね。昔は レコード・ショップのオーナーにでもなりたかったわけ?」


あたしは、すぐ側に 小さな踏み台が置いてあったのに気づいて―もう、これって あたしは背が低いって バカにされてるのかもしれないけど―でも ありがたくそれに上りながら エドワードを振り返った。

エドワードは ソファに寝そべると、にやっと笑いながら答えた。


「そうだな、それも良いかもしれないな―ぼくの独断と偏見で わざとマニアックすぎる商品を揃えたりしてさ、お客をいじめてみるのも 楽しいかもしれない」

「あなたって、すぐ人をからかおうとするんだから…ちょっと、何よ?」


高い棚に手を伸ばそうとして、エドワードがやけに熱心に あたしを見つめているのを不思議に思った。
あたしの足にでも 何かついてる?


「ああ、いや―今日はきみが スカートだったら良かったのになって思ってただけさ。このアングルだったら 完璧に見えたのに…って、ベラ、危ないだろ」


あたしが投げたCDを くやしいぐらい完璧にキャッチして、余裕のほほえみを浮かべながら エドワードは立ち上がった。
あたしはオーディオの方に逃げたけど、すぐエドワードに捕まって、まるで羽交い絞め。


「あのねえ、あなたがそういうセクハラ発言ばっかりのうちは、何があっても絶対 スカートなんか穿かないんだからね!」

「そんなこと言ってるけど、本当は ちょっと気になってたりしない?」

「…しないわよ!大体、スカートなんて すっごく動きにくいし、そわそわするもの」

「その 危なっかしいかんじがいいのにな」

「―危なっかしいのなんて、あたしはいつものことでしょ!ほら それ貸してよ、もう」


エドワードの手からCDを取ろうとしたけど、あっさり奪い返されて、エドワードが その長い指で ディスク・テーブルに載せる。
エドワードのオーディオは、あたしのなんかとは大違い、とっても高そうだし、何だか色んな機能が付いてるし、こうやってエドワードが 迷うことなく 何でも設定しちゃうのが 横で見てても本当に不思議。
あたしのは、もっとシンプルで分かりやすいもん―ワンタッチで蓋を開けて、閉めるだけ。


「きみ、いつも最低限の使い方しかしないんだからな…スピーカーだって、ほら この前新しくしたのにさ」

「だって、あたしがやっても 音は出るじゃない、ちゃーんと」

「欲が無いんだからな、ベラは」


エドワードは くっくっと笑って、あたしを腕に抱いたまま ソファへ戻った。
でも、確かにエドワードの言うとおり、新しい巨大なスピーカーで聞くと、まるで本当に バンドのライブ演奏を聴いてるみたい。

エドワードのCDを聴かせてもらうようになって、あたしは ちょっとジャズが好きになってきていた。
前は、ジャズなんか聴く機会は無かったんだけど…エドワードは、割とジャズが好きみたいで、CDもたくさんある。
これを機に 新しい音楽ジャンルを開拓するのも良いんじゃないかなって思って。

あたしは、エドワードの肩にもたれながら、ふと尋ねた。


「あ、ねえ そういえば このトランペットは誰が演奏してるの?さっきはタイトルしか見なかったから」

「ああ、これか。これは エリック・ジェイコブセンかな…」


その名前をつぶやきながら、あたしは エドワードの声が少し小さくなったのに気づいた。
そう、分かってる エドワードは あたしが 名前に反応したのが分かったんだ…

ジェイコブ―
今、彼を少しでも連想させる言葉は、あたしたちにとっては禁句だった。

ジェイコブとあたしは、あの エドワードと3人で話した日以来、一切顔すら合わせてない。
ジェイコブが あたしたちを避けているのは分かってる。ほんの少し前までは あんなに一緒に過ごしたっていうのに、今じゃ丸っきり 存在の欠片もない。

エドワードが帰って来た時点で、あたしがエドワードを選ぶこと、ジェイコブとは もういられなくなるかもしれないってことは うすうす覚悟はできてた。
でも、ジェイコブは あたしにとっては初めての親友だったし、楽しかった時間を思うと、完璧に 幸せには浸りきれない…もちろん、エドワードが帰って来てくれなかったら、あたしの一生はもっとひどいことになってた。
それよりは、絶対にマシ。

だけど、どうしてこんなに苦しいんだろう…


「―曲を変えようか」


黙り込んだあたしを見かねて、エドワードがゆっくり立ち上がった。
棚から素早くCDを選び出して、ディスクを取り出す。
あたしのことを気遣ってるんだって分かってはいたけど、なぜかあたしは少しそれが気になった。


「そんな、いいのに…」

「よくないさ。きみの顔 見てみろよ―そんな悲しい顔させるなんて、ぼくが悪いんだ」


こっちに背中を向けたエドワードの声は、なんだか ぞっとするほど 寂しく響いた。


「なによ それ、どういう意味?」


あたしは、焦って立ち上がった。


「あなたが悪いなんて、そんな 何も関係ないじゃない、どうしてそんなこと言うのよ?」

「何も関係ない、だって?」


エドワードの手を取ろうとしたけど、それをエドワードは ふっと逃れて、そのまま窓辺に立った。
まるで怒ってるみたいな声だけど、まだその表情は見えない。


「ぼくが気づいてないとでも思ってるのか」

「―だ、だから 何のことをよ」


怒ってるみたい、なんじゃなかった―はっきり分かったのは、エドワードは なぜか怒ってるていうこと。
それに、ものすごく悲しそう。

エドワードは、窓枠にもたれて、つぶやくように言った。


「ぼくはさ―本当に、帰って来て良かったんだろうか…」

「なんてこと言うのよ!」


あたしは、急に心臓がバクバク 音を立て始めるのを聞いた。
構わずに その後姿に駆け寄って、背中を抱きしめる。
ほとんどしがみつくように そのシャツを握り締めながら、あたしは叫ぶように言った。


「それって どういう意味なの、どうしてそんなこと言うの?!もしかして、またあたしを置いていくつもりなの?やっぱり あたしなんかと一緒にいることには うんざりしたの?」

「違う―きみに うんざりなんて、するわけない。ぼくじゃない、きみだよ」

「えっ―」

「ジェイコブ・ブラック。きみの大事な人間を きみから奪ったのは、紛れも無く ぼくだ。きみにそんな顔をさせてるのは、ぼくが原因だ」

「そんな―そんなこと、あなたのせいじゃない、あたしが選んだことよ。それに もう過ぎた話じゃない…」

「いや、過ぎた話なんかじゃないさ」


エドワードは、わずかに あたしから体を離しながら 低い声で言った。


「ぼくのしたことが、きみにとって良いことだって 勝手に思い込んで取った行動が、結果として きみをこんなにも苦しめてる―きみを傷つけて、心を壊した。今度は勝手に戻ってきて、きみの友達を奪った…友達以上になれたかもしれないのに―」

「その話はやめてよ、ジェイコブとは 何でもなかったんだから!ただの友達、本当よ。それに、あたしは自分であなたを連れ戻しに行ったんだもの、あなたがそのことで責任を感じる必要なんかないのよ!」


エドワードは黙り込んだ。
冷たい背中だった―エドワードは、大体いつも ひんやりしてるけど、それでも あたしはかすかな暖かさを感じることができた。
でも、今日の背中は 何だかすごく遠くて、冷たい…


「自分勝手なんだよ、ぼくは―きみには、マイク・ニュートンみたいな 生きた人間がふさわしいって知ってたんだ。ジェイコブ・ブラックだって、そうさ 初めは あいつでも ぼくよりはましだって思った。でも、狼人間だって分かってからは―」


エドワードは、窓の外に目をやった。
独り言のような、ささやくような声だった。


「―渡すもんか。そう思った。ジェイコブ・ブラックは、確かにぼくがきみに与えられるより もしかしたら幸せな時間をやれたかもしれない、でも どっちにしろ人間じゃないんなら、そんなこと 構うことはない。きみから あいつを奪ったって、ぼくがもっときみを愛すればいい、そう思ったんだ…」


あたしが何も言えないでいる中、エドワードは 寂しそうに語り続けた。


「でも、やっぱり それはいけないことだったんだ。例え両方人間じゃなくても、ぼくは いつきみを殺すことになるかも分からない。あいつだったら何でもないことなのに、例えば きみとこうして一緒にいることにすら 気を使わずにはいられない。ぼくは 自分のエゴのためだけに、数え切れないくらいたくさんのものを きみから奪っているんだ…」

「そんな、エドワード…」

「いいんだ、ベラ。ぼくに気をつかうことなんかない」


エドワードは、弱りきったような声で、でも 精一杯ごまかす様に言い切った。
そして、やけに冷たくつぶやいた…


「きみは…きみには、やっぱり 一緒に年をとって、暮らしてやれる相手が必要なのかもしれない。ジェイコブ・ブラックみたいに…ぼくは、きみにはふさわしくないのかもしれないな」

「なんてこと言うのよ!」


あたしは、エドワードの肩を掴んで 無理やりこっちを向かせようとしたけど、エドワードはびくとも動かなかった。
硬い抵抗感だけが 右手に残る。


「そうだろ、ベラ。こんなことが―命の危険と隣り合わせに、しかも進んで永遠の苦しみに耐えようなんて思うことが、きみが本当に望んでたことなのか?ぼくらに未来がなかったらどうする、きみは きみの大切な時間を無駄にしてることになるんだぞ」

「ひどい、あたしの何が分かるっていうなら、そんな勝手なこと言うのよ―あたしがどんな気持ちで…」


思わず涙が出そうになって、あたしは唇を噛んだ。
泣いたりしちゃだめだ。ここで泣いたって、余計に状況がこじれるだけだもの。

あたしは、震える声を抑えながら、ゆっくりと エドワードの後姿に 手を伸ばした。


「ね、エドワード…こんなの止めよう。あなたらしくないわよ、落ち込んだりして―」

「…ぼくは落ち込んでなんかいない」


エドワードは、急にきっぱりそう言うと、あたしに向き直った。
とても、とても冷たく硬い瞳をしていた。


「本当のことを言ってるだけだ―しょせん、ぼくはきみには ふさわしくないのさ」


あたしは、差し出しかけた手を 思わず止めた。
まるで追い討ちをかけるように、エドワードは冷たく続ける。


「分かってるだろ、ぼくときみが一緒にいることは、本当は 間違ってるんだ。きみと一緒にいるべき誰かを ぼくが押しのけて割り込んだにすぎない…偽者以外の 何者でもないのさ…」


その言葉を聞いて、あたしは始め 呆然とした。
そして、次に ものすごい怒りと恐怖が沸いてきた―そして、思わず あたしはエドワードを怒鳴りつけていた。


「もういい、エドワードなんか!」





「―ってわけなの」


そこまで話し終わったところで、あたしは また涙が頬を伝っているのに気づいて ティッシュに手を伸ばした。
アリスは あやすように あたしをずっと抱きしめてくれていて、エズミは まるで自分のことみたいに 浮かない顔だ。

エズミが、悲しそうに言った。


「ごめんなさいね、ベラ。あの子の為に、辛い思いをさせてしまって…その上こんなこと、あなたに頼むのはひどすぎるかもしれないけど―それでも どうかあの子を許してやってほしいのよ」


エズミは、涙を浮かべた瞳で あたしを見つめた。


「あの子は、怖がってるだけなのよ―今まで あの子はずっと一人だった。そこにあなたが現れて、今ではベラ、あなたは あの子の全てなのよ。でも、だからこそ、恐ろしくなるの―もし あなたを失ったら、自分が あなたにふさわしくなかったらって。それに怯えるあまりに、こんな 心にもないことを言ってしまうのよ…」


アリスも、ため息をついて あたしを強く抱きしめた。


「エドワードはね、いじっぱりなの…本当よ、うちの家族の中でもずば抜けてひどいわ、ロザリーといい勝負ってくらいにね。だから、本当は ただ あなたの気持ちを確かめたいだけなのに、ついつい調子にのって、ひどいことを言っちゃうわけ。でも、それは決して エドワードの本心じゃないの…」


そこで アリスは大きくため息をついた。


「あたしが 代わってお詫びする―本当、自分の兄弟として 恥ずかしいわ」

「そんなこと―」


あたしは、必死で涙を拭きながら答えた。
―しゃっくりみたいな 変な呼吸音が混じって みっともないったら無かったけど。


「でも…あたし これから一体どうしたらいいの?あんなエドワードを置いて、部屋を出てきちゃったのよ?今更どんな顔して戻ったら―」

「うーん…ちょっと待って」


アリスは、少し遠い目をした。
未来を見通す目だ―何が見えたんだろう、アリスは すこしほほえんで あたしに目を戻した。


「大丈夫、全部うまくいくわ。今は、そうね―しばらく眠ったら?疲れた顔してるわよ?あたしがここで一緒にいるから、ほらそこのベッドに入った入った!」


アリスは、まるでお母さんみたいに あたしを彼女のベッドに寝かしつけてくれた。
エズミが アリスの様子に何かを感じ取ったのか、少し安心したみたいに テーブルの片づけを始める。
そんなエズミと、アリスの 優しい顔をながめながら、どうやら本当に泣きつかれたのか、あたしは すぐに瞼が重くなるのを感じた―







to be coninued...!







the twilight


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